安全に行うために
院内検査・研究環境
当院では院内に検査・研究室を設け、常勤の臨床検査技師が患者さんの皮膚の黄色ブドウ球菌数を検査するとともに、PCRを導入し浴水中の細菌の遺伝子など多項目の検査を行っています。
【検査項目例】
・血液中や皮膚の免疫細胞の働き
・浴水中のカビやバクテリアの数や割合
・バイオ入浴前後の免疫の変化
その他にも、院外の研究機関に依頼して、浴水の細菌叢(マイクロバイオーム)にどのような菌が存在しているのかを遺伝子レベルで照合・特定するなど、より効率的な入浴法の研究に取り組んでいます(16S rDNAメタゲノム解析と言います)。
バイオ入浴の安全性試験
当院では2005年にバイオ入浴の研究を開始して以来、2019年6月までに480例以上の症例を経験してきましたが、問題になる感染症は発生していません。 バイオ入浴は浴水を長期間替えず、主にバチルス属をはじめとする土壌細菌叢を培養しながら人体からの老廃物を分解し水質を保つという特異な養生法であるため、各種の安全性確認を行ってきました。
特に、バクテリアを培養した浴水に入浴することから、細菌感染へのリスクについては様々な研究・検証を行っていますが、細菌叢の遺伝子解析結果から、浴水中で培養される土壌バチルスをはじめとする菌群は繁殖力が非常に強いため、適正に管理されている浴水内では一般の病原性細菌が繁殖するリスクが非常に低いことがわかっています。
以下に、バイオ入浴での感染リスクについての見解を示します。
◎レジオネラ菌
レジオネラ菌は環境中の脂質に弱く、バイオ入浴の浴水中では繁殖が阻害される上、バチルス等の菌に比べて繁殖力が非常に低いため浴水中での繁殖は困難です。
過去には、外部の検査機関に10年間にわたって170回以上検査を依頼しましたが、一度も検出されたことはありません。また、これまで400例以上の方が数年単位でバイオ入浴に取り組んでいますが、感染例の報告はありません。
しかし、PCR法で浴水中の遺伝子を検査すると、わずかながらレジオネラ菌の遺伝子が検出されます。その理由は、浴槽や循環装置内のヌメリ被膜(バイオフィルム)の中に繁殖したアメーバの体内に寄生していると思われます。
レジオネラ菌は、感染しても大半は不顕性感染で何の症状もなく終わりますが、まれにポンティアック熱という数日の発熱や倦怠感を引き起こします。そして非常にまれではありますがレジオネラ肺炎を引き起こすことがあります。
レジオネラ肺炎は全身性倦怠感、頭痛、食欲不振、筋肉痛の症状後に咳嗽が生じますが、一旦発症すると早期に診断・治療をしないと手遅れになる可能性がありますので、もしバイオ入浴を継続している方に肺炎が生じた時は、担当医に24時間風呂に類似した入浴法を行っている事を告げてください。
レジオネラ抗原は尿検査キットでチェックする事が出来、ニューキノロン、マクロライドなどの抗菌薬に良く反応します。
◎下痢を引き起こすウイルス
最も気をつけねばならない感染症は、下痢症状を引き起こす耐熱性ウイルスであるノロウイルス(Norovirus)やロタウイルス(Rotavirus)です。下痢が生じているときは入浴を控えてください。
◎破傷風菌
土壌細菌でもっとも病原性が強いものに破傷風菌がありますが、嫌気性菌であるため加温循環装置を使用して好気性の状態を維持すれば問題ありません。
◎黄色ブドウ球菌
炎症が強く出ているアトピー性皮膚炎の方が入浴すると、黄色ブドウ球菌がお湯の中に短時間残存する可能性はありますが、マイクロバイオームの遺伝子解析では全く検出されませんので、1時間程度の間隔を開ければ感染する可能性はないと思います。
※ただし、同じ浴槽を使用している健常者に皮膚炎が生じたときは、入浴を取りやめて当院にご相談ください。
その他の安全性試験
発酵粉末を浴水と等濃度に懸濁して1週間培養した培養液を使用し、メダカを用いた急性毒性試験および26名のボランティアによる内服試験を行って、安全性を確認しています。
ただし、バイオ入浴に使用している浴水を口の中に入れたり、目の中に入れたりするのは避けてください。
免疫細胞は全体の30%が皮膚に、60%が腸管に集中して存在していてそれぞれ免疫システムが違うため、バクテリア粉末の内服も(一部の患者さんで効果が見られることがあるものの)マイナスに作用する恐れもあり、慎重に考えるべきです。