治療の現場から

       

注射薬をやめてから悪化していたアトピー 1ヶ月間の入院で劇的改善 症例:62

2021.04.24治療の現場から

50代 女性 入院期間2021年2月~3月

顔を中心としたアトピー性皮膚炎でステロイド外用・内服、デュピクセント(デュピルマブ)使用歴もある患者さんが、約一ヶ月間の入院治療でTARCの値が10分の1まで改善した症例です。

口元

症例写真は記事の後半に複数掲載しています。

入院までの経緯

小児期から成人までのアトピー症状

幼児期は小児喘息があったが小学校に行くようになり治癒。
成人し、美容室に勤務するようになってから手荒れが生じるようになり、近医皮膚科でステロイド軟膏を処方されたが手荒は治らず、美容室を退職。手荒れも改善した。

手荒れの再発と顔の皮膚炎

35歳ぐらいから手荒れ、顔の肌荒れが生じるようになって皮膚科に行くようになり、薬の頻度・強度が次第にアップ。ステロイド外用でもコントロールできない時期にはステロイド内服や注射も行った。

デュピクセント使用開始

入院約1年前(2020年1月)から顔の皮膚炎がコントロール不良となり、2月に海外出張があったため「症状を落ち着けたい」とかかりつけ医に相談したところ、の注射薬デュピクセント(一般名デュピルマブ:IL4とIL13のブロック剤)使用を勧められ、総合病院の皮膚科へ紹介を受けた

2020年1月から3ヶ月間にわたって週2回の自己注射を行ったが、期待した効果は感じられなかったうえ、自己注射の心理的ストレスと痛み、金銭的な負担などが大きく使用を中止した。

デュピクセント中止後

皮膚炎は全身性に拡大したがステロイド治療に戻ることは選ばず、鍼や食事に気を付けるなどの養生を試みていたが、9月頃から状態が悪化して寒気を四六時中感じるようになり、職場へ湯たんぽを持って出勤するほどになった。
冬場になっても症状は改善せず、年末からは休職せざるを得なくなった。

療法や医療機関を検索する中で当院やバイオ入浴を知り問い合わせた。
職場や家族の事情で短期の教育入院も検討したが、当院医師から通常の入院を勧められ、家族の協力と職場の理解を得て入院となった。

検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。

検査結果

入院後の経過

入院時は重症状態

過去に長期のステロイド使用と3ヶ月間のデュピクセント治療歴のある患者さんで、入院前の半年間程は薬をやめていました。入院時の血液検査では炎症の程度を示すTARCが15150と高値で、重症に分類される状態です。
皮膚症状は顔や首に落屑が見られるほか、膝裏にはカサツキ、全身の赤みが確認できます。

2週間でTARCが大幅に低下

入院後はノンステロイド治療と並行してバイオ入浴にも取り組んだところ、2週間でTARCが5分の1の3147まで大幅に改善。

LDH(皮膚炎の強度を反映・皮膚の細胞の破壊によって上昇する)も408から213と基準値内に低下し、16.9%と非常に高値であった好酸球(急性期のアレルギー炎症を反映)も、基準値に近い8.5%まで大幅に低下(改善)しています。

退院時は軽症状態に

その後も経過は順調で、入院1ヶ月でTARCが軽症レベルの1450まで改善。1ヶ月間で10分の1以下まで順調に改善しました。

当初から、仕事や家族などの事情のために、当院としては短い1ヶ月間の入院期間を予定していましたが、この1ヶ月間で明確な改善が得られました。

皮膚の変化はTARC等のサイトカインの変化に遅れますので、もう1ヶ月経過を見たいところですが、経過画像からも、落屑がなくなり赤みが落ち着いているだけでなく、ツヤやハリが取り戻されてきていることが判ります。

自宅療養の継続で体質改善が進めば、ますます健康な皮膚に近づいていくと思われます。

自覚症の改善

当院がアトピー患者さんに対して実施しているPOEMという検査は、過去1週間のアトピー性皮膚炎の自覚症を患者さんが回答する方式で行うもので、皮膚炎がどの程度日常生活の障害となっているかを知るのに役立ちます。

この患者さんは、入院時はPOEM22点と高値だったのが退院時はわずか2点で、たまに皮膚の痒みや乾燥を感じる程度までアトピーの症状が改善しました。
下記に、設問の内容と回答を掲載します。

Q1 この1週間で、皮膚のかゆみがあった日は何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → 2日(退院時)1点

Q2 この1週間で、湿疹のために夜の睡眠が妨げられた日は何日ありましたか?
5~6日(入院時)3点 → なし(退院時)0点

Q3 この1週間で、湿疹のために皮膚から出血した日は何日ありましたか?
3~4日(入院時)2点 → なし(退院時)0点

Q4 この1週間で、湿疹のために皮膚がジクジク(透明な液体がにじみ出る)
した日は何日ありましたか?
3~4日(入院時)2点 → なし(退院時)0点

Q5 この1週間で、湿疹のために皮膚にひび割れができた日は何日ありましたか?
5~6日(入院時)3点 → なし(退院時)0点

Q6 この1週間で、湿疹のために皮膚がポロポロと剥がれ落ちた日は
何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → なし(退院時)0点

Q7 この1週間で、湿疹のために皮膚が乾燥またはザラザラしていると
感じた日は何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → 1~2日(退院時)0点

ドクターコラム

重度アトピー患者さんに入院治療をお勧めする理由

この症例は、問い合わせ段階では3泊4日の教育入院を希望なさっていた患者さんですが、これまでの治療歴や当時の皮膚炎の状態から、可能な範囲の期間で通常入院をなさるようにお勧めしました。

教育入院では、バイオ入浴に関する知識や、心理療法や食事療法のエッセンスを凝縮してお伝えしますが、ある程度の期間(時間)をかけて、体感的に身に付けた知識や体験に勝るものはありません。

またアトピーは、食事やストレス、仕事え、家事をはじめ、ライフスタイルが悪化要因になり得る病気ですから、日常生活から離れ、アトピーを改善するための環境の中で治療に専念することが、重度アトピー改善への一番の近道だと私は考えています。

病棟廊下

アトピーが悪化した状態での日常生活は多くの重症アトピー患者さんの心身を疲弊させ、生きる喜びすら失っている患者さんも多くいらっしゃいます。

この症例の患者さんは退院時に「入院生活がとっても快適で、ご飯も美味しく至れり尽くせり。もう1ヶ月くらい入院していたいくらいです。」とおっしゃっていましたが、数ヶ月の入院期間を自分の体や心と落ち着いて向き合う時間とすることで、アトピー症状を改善させるだけではなく、当院への入院をきっかけに患者さんの人生がより豊かなものになっていくのではないかと考えています。

献立

デュピクセントについて

デュピクセントは2018年に登場した注射薬で、当院に入院なさる患者さんの中にも、「過去にこの治療を受けていた」という方が、ときどきいらっしゃるようになってきました。

デュピクセントは大手製薬会社であるサノフィ社(仏)、リジェネロン社(米)が共同開発した注射薬で、アレルギー反応を引き起こすTh2系免疫で活動しているサイトカイン(IL13・IL4)をブロックする働きがあります。

しかし、人工的にIL13やIL4の働きをブロックするので自然な免疫にひずみが生じることは避けられず、結膜炎が高い頻度で生じるという副作用の報告も、このひずみが原因と考えられます。

また、過剰になるとアレルギー反応を引き起こすTh2免疫も、抑制しすぎると感染症に弱くなったり、長期的には悪性腫瘍の発生も危惧されます。

デュピクセントは、ステロイド外用やプロトピック外用でコントロールが得られなくなったアトピー患者さんが、主に2週間に1回の自己注射で使用しますが、この症例のように使用を中止するとリバウンドが生じるおそれもあります。

そのうえ薬価が高価(1回1本66,300円を月2回接種=1ヶ月約130,000円)で、健康保険の高額療養費制度を使用して3ヶ月分を一括購入したとしても、1ヶ月間に約15,000円の薬剤費の患者負担が生じます。
ここに通院や薬局での負担が加わるので、最低でも1ヶ月に20,000円程度の費用が必要です。

健康保険適用とは言っても、月13万円もの薬剤費は最終的に(国民)健康保険料や税金から賄われるわけで、そのほとんどは海外の製薬会社に支払われます。

いち早く開発された新型コロナウイルスワクチンが全て海外からの輸入薬剤だったことで、日本の製薬会社が開発能力で劣っていることは皆さんもお気づきになったことと思いますが、その反面、高額な海外製の薬剤で健康保険の負担が増し、政府の赤字も拡大しているのです。将来返済できる見通しのない借金で支払っているだけです。個人の健康は国の不健康で支えられているという皮肉な構造です。

当院の考え

当院が開発・提唱している【バイオ入浴】は、浴水中のバクテリアが皮膚のTh1 ・Th2・ Th17等多彩な免疫細胞の受容体に働きかけてTh1系免疫を刺激・強化すると同時に、過剰になっているアレルギー性Th2系免疫を抑制して免疫バランスを調整します

Th1/Th2に働きかけるという共通点はあるものの、アトピーを改善させる機序は全く別物であるということを、改めてご説明しておきたいと思います。※当院ではデュピルマブでの治療は行っていません。

バイオ入浴については、このサイト内で様々な角度からご紹介していますが、まずはこちらのページをご覧頂ければと思います。

やっと見つけた!アトピーの原因療法!:久保Dr.からのアドバイス

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