治療の現場から

       

これ以上の薬はないと言われ自宅脱ステで激悪化していた女性 症例:88

2024.08.01治療の現場から

50代 女性 2024年1月~3月 62日間

顔#88膝下#88
足の甲#88
背中#88
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入院までの経緯

幼少期からアトピー性皮膚炎ではあったが、治療を必要としない程度の軽症だった。

入院の9年前、介護の仕事に転職すると、半年後くらいから手、足、体に発疹が出るようになりステロイド治療を開始。
入院の3~4ヶ月前から症状の範囲が全身に拡大しはじめ、少し改善したかと思えば、すぐに悪化するということを繰り返していた。

当時受診していた医療機関ではこれ以上の薬はない」と言われ、紫外線療法を実施。
3回の治療で症状はやや緩和したが、1ヶ月を待たず悪化した。

入院の20日程前に自己判断でステロイド内服・外用を休薬(いわゆる脱ステロイド)すると、直後より最高39度台になる発熱や全身の腫れ、掻いた部位からの滲出液などが生じた。

自宅での療養に不安と限界を感じて当院を受診。入院となった。

検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。
検査結果#88

入院後の経過

入院時の血液検査で皮膚炎の程度を反映するTARCが約35000pg/mと、最重症状態で入院なさった患者さんです。
特に下肢の腫れが強く靴を履くことも困難で、院内での歩行もやっとの状態でした。

入院後は治療を開始するとともにバイオ入浴での免疫刺激にも取り組んだところ、全身の腫れや赤みは入院1週間を超える頃から徐々に軽減し始めました。

2週間経過での血液検査でも、急性期のアレルギー反応を反映する好酸球が38.0%と極めて高値を示し、炎症の激しさを物語っています。

入院1ヶ月時点での血液検査では、TARCは入院時の3分の1にまで低下(改善)し、好酸球の値にも歯止めがかかって、自覚症状を示すPOEMも10点まで減少。
耳周辺からの滲出液が出なくなって、爪のデコボコも少なくなってきました。

その後も、当初の症状を鑑みれば経過は順調で、退院直前に行った入院約2ヶ月の検査結果では、TARC878をはじめとして多くの項目で基準値内まで改善しました。

IgEは他の多くの患者さんと同様に反応(改善)は緩やかですが、長期的なバイオ入浴でさらなる改善が得られるよう、様々な助言をしてご自宅へ送り出しました。

退院からこの記事を書いている2024年7月末までに数回外来を受診なさっていますが、自覚症状を示すのPOEMが連続して0点(皮膚炎の自覚症状なし)と、経過は非常に経過で、介護の仕事にも問題なく復帰・継続できています。

ドクターコラム

介護関係の仕事に就いて間もなくから、皮膚症状が出るようになったという患者さんです。

これまでも、医療や介護、美容師など固有の職業にある人がアトピー性皮膚炎を発症したり、難治化したりするケースがあることを紹介してきました。

これは手指の消毒や高温多湿な環境での作業、アレルギーや肌荒れを引き起こしやすい薬剤の使用に原因があると考えられるため、介護職等の方にはなるべく手洗い時の洗剤使用を減らし、単純な水道水で洗ったうえでその都度保湿することをお勧めしています。

治療後に復職しこの患者さんのように良好な状態が維持できればいいのですが、仕事との関わり方を考え直す必要が生じることも多々あります。

好きな仕事・やりがいのある仕事と健康を秤にかけなければならないのは、犬猫に強いアレルギーがある犬好き・猫好き患者さんが、ペットとの生活を考え直す必要に迫られる場合と似たものがありますが、その必要が生じる可能性が高いのは残念ながら事実です。

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