治療の現場から
イトラコナゾール錠50とアトピー性皮膚炎の治療について
2020.12.23治療の現場から
イトラコナゾール錠50について
令和2年12月23日更新
小林化工 イトラコナゾール錠50に睡眠導入剤の成分が混入していたことが発覚し、社会的に大きな問題となっています。
健康被害・事故に遭われた方々には、心よりお見舞い申し上げます。
私(院長の久保賢介)は、イトラコナゾール錠50を処方した複数の患者さんに、意識障害やそれをきっかけにした交通事故などの異常が生じたことからこの件を調査し、問題が生じているロットナンバーを特定した上で、具体的な異常症例7件を提示して、製薬会社へ調査を促すとともに販売中止を強く申し入れました。
私からの申し入れを受けて製薬会社が行った調査の末、指摘したロットナンバーの製品に睡眠導入剤成分が混入していたことが発覚したという経緯から、多くの取材依頼にお応えしました。
この報道をご覧になった方の中には、私のような内科/アレルギー科の医師が、多くの患者さんに水虫の薬を処方していることを不思議に思われる方もいらっしゃるようです。
私は、これまで5年以上にわたって多数の患者さんにイトラコナゾール錠50を処方してきましたが、これはアトピー性皮膚炎の治療が主な目的です。
当院では、かねてよりノンステロイドでのアトピー治療を希望する患者さんの治療に特化して入院病棟を運営していますが、アトピー性皮膚炎は、このサイト内でも詳しく説明しているように、「免疫の形成がアンバランスな人の皮膚に黄色ブドウ球菌やマラセチアなどの酵母様真菌が増殖したことによって生じた感染症」です。
当院が、2010.2.1~2011.1.31の1年間に1ヶ月以上の入院治療を行った重症アトピー患者30名に対し実施したアレルゲンを特定する検査の調査では、アレルゲンとして反応している割合が最も高かったのはマラセチア(陽性率100%)で、全ての患者にアレルゲンとして作用していると考えられる結果でした。
また、カンジダや白癬菌の一種トリコフィトンも陽性率が高く、成人型アトピー性皮膚炎はこれらの皮膚常在の真菌類に陽性率が高いことが特徴だと言えます。
意外に思われるかも知れませんが、一般的にアレルゲンとして認知されているダニやスギ花粉以上に、カビの一種であるマラセチアがアトピーのアレルゲンとして作用しているのです。
対象患者の詳細
対象は、入院の検査にて重症と判断した患者33名で、平均年齢は30歳、平均罹患期間は22年でした。
これらの病原菌は、痒みを伴う炎症を引き起こし、患者自身が患部を掻き皮膚のバリア層を破壊することで、それらの病原菌は皮膚の深部にまで到達して皮膚炎が悪化してしまいます。
イトラコナゾール錠50は、一部報道では水虫の薬と表記されていますが正確には抗真菌薬であり、アトピー患者の皮膚に増殖したマラセチアなどの真菌類を抑える効果が期待できるため、処方するのは自然なことなのです。
ただし、抗真菌薬は、アトピー性皮膚炎の原因である免疫のアンバランスを改善するものではありませんので、当院では免疫バランスの改善・変換へのアプローチとして、自然療法の「バイオ入浴」を開発提唱しています。※バイオ入浴とは
公害認定の喘息患者だった私が、自然療法を大切に考えるようになった経緯はこちらのページに詳しく書いています。医師・スタッフ紹介
一般には認知されていませんが、アトピー性皮膚炎は重症化すると、就労・就学はおろか日常生活すら困難になる病気で、当院は、そのような状態となってしまった重症アトピー患者が全国から入院なさっています。
マラセチアタイプの皮膚炎が悪化し、痒疹となっていた症状が改善した症例
強い痒みに悩まされた痒疹 脱ステロイドのリバウンドを乗り越えて改善 症例:56
私がこの薬を処方していた患者さんが多かったため、当院に異常症例が集中したことによって問題を発見することができたのは不幸中の幸いと言えるのかもしれませんが、長年この薬を信頼して使用してきたわけですから、製薬会社には裏切られた気持ちがあります。
そして、問題となったロットナンバーを服用していた治療中の患者さんは、健康被害だけでなく適切な治療の機会を一時的に奪われていたとも言えます。
事故を起こした製薬会社には、原因究明と再発防止策の徹底並びに被害を受けられた患者さんに充分な補償を行うよう強く望んでいます。
報道関係者様へのお願い
本件では、12月21日に製造元の製薬会社へ厚労省の立ち入りがありましたので、当院としても一区切り付け、本来の業務に専念したいと考えています。
薬の異常を察知して以来、社会に情報を発信して注意を喚起し、このような問題が2度と起こらないような仕組みづくりへの問題提起を行うという、一医療者としての責任を果たせたと思います。
今後は、当院関係で被害に遭われた方への補償を終わらせ、田舎の一医療者として、診療と研究、休日の畑仕事に戻りたいと思っています。
今も世界中では1日に10万人ものアトピー性皮膚炎の赤ちゃんが生まれていますが、私の研究テーマはこの数をゼロにすることです。
これまで続けてきたこの研究について、春までに論文を海外誌に投稿を予定しており、私の研究が世界に役立つことを夢見ています。
報道関係の皆さまには大変申し訳ございませんが、今後、イトラコナゾール関係の取材にはお応えすることが出来ませんので、何卒御了承下さい。
日本がおだやかで住み良い国でありますように。
令和2年12月23日
ナチュラルクリニック21 院長 久保賢介