治療の現場から
ステロイド中止後から悪化が続いていた男性。年末からの入院で順調な改善 症例:80
2023.10.01治療の現場から
30代 男性 2022年~23年 94日間入院
入院までの経緯
小児期からアレルギー体質で喘息があった。中学1年生で四肢屈曲部を中心にアトピーを発症。
ステロイド外用の他、鍼なども試したが望ましい改善は得られず、中学2年から4年間は、毎年学校の長期休みを利用しては脱ステ治療が受けられる皮膚科へ入院していた。
しかし、部活で汗をかくとすぐに悪化してしまい、高校3年生でステロイド外用を再開。
大学入学後、自己流で脱ステを試みながら整体にも通ったが、脱ステ後1年半にわたって患部から滲出液が出る状態が続いたためステロイド外用を再開し、プロトピックも併用するようになった。
10年以上何とかコントロールしてやり過ごしていたが、入院の約半年前に、民間の温熱療法を行いながらステロイド・プロトピックを中止。
市販の保湿クリームを使用しながら温熱療法を続けたが、ステロイド中止後の症状悪化には出口が見えず、日常生活も困難な状態となった。
母親の知人に当院への入院経験者があり、その方からの紹介で当院を知って問い合わせた。
検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。
入院後の経過
入院時、特に上半身に強く皮膚炎が生じていて、炎症の程度を示すTARCは約5000と、中等症~重症状態だった患者さんです。
背中の肩下あたりからは滲出液が出て、痒みだけでなく痛みの訴えもありました。
入院後は非ステロイド治療や食事療法を開始し、バイオ入浴にも取り組んだところ、数日で痒みや赤みなどが減少し始め、1週間が経過する頃には掻き傷の減少や痛みの改善も実感するようになりました。
2週間経過で行った血液検査でもTARCや好酸球が順調に低下し、1ヶ月が経過する頃には、痛みを感じることなく腕が自由に上げ下げ出来るようになるなど、明らかに軽快。
その後、風邪症状が生じ、入浴時間を若干短くした影響などから皮膚炎の改善がペースダウンした時期もありましたが、少しずつ改善を続け、本人もそれを実感していました。
約3ヶ月間の入院で、TARCは4923→1040、好酸球、26.0→7.5、POEM(自覚症状)28→9と、検査結果でも目に見えた改善が確認できます。
なお、入院中IgEは乱高下していますが、改善に時間を要することが多い検査項目であるため、長期的に療養や入浴法を続けていくことによって時間をかけながらも低下していくことが期待されます。
ドクターコラム
12月に入ってから受診や入院についての問い合わせを下さったこの患者さん。
年末の問い合わせには「年末年始は自宅で家族と過ごし、年明け早々から入院できれば」といった内容のものが増えますが、症状が切羽詰まっている患者さんほど入院のタイミングを見計らうような余裕はなく、一日も早い入院を希望なさるものです。
この患者さんも「調子が悪く年末年始を楽しむ気分ではないので」と、なるべく早くの入院を希望なさいました。
命に直接関わることがほとんどないアトピー性皮膚炎では、腰を据えた治療は様々な事情で先送りされてしまいがちですが、中等症以上のアトピーは特に生活の質に大きく影響する疾患です。
このような患者さんには、悪化状態が長く続いて日常生活がままならなくなっていたり、入院治療に踏み切る決意が持てなかったりする方も多いものですが、先々を見据え思い切って治療に取り組むことで、患者さんのその後の人生が動き始めるというケースをこれまでにも沢山見てきました。
出口の見えないアトピーの悪化状態を脱するためには、それまでの環境や治療方法をガラリと変更する思い切りが必要になることもあるのです。