治療の現場から
ステロイド使用歴なし 長年治療を受けてこなかった患者も改善 症例:60
2021.03.24治療の現場から
20代 男性 入院期間2020年10月~12月
入院までの経緯
幼少期から皮膚に赤みが生じるようになり、小学校3年生頃にアトピー性皮膚炎と自覚したが、病院にはかからなかった。
学童期から中学時代は、膝の裏側や肘の内側に症状。
高校生になり手足首や肩甲骨周辺にも症状が生じたが、ときおり馬油で保湿する程度だった。
入院の2年前、目の周囲や手などにも症状が出現。軽快・悪化を繰り返したが、1年前に転職(人材派遣:機械整備)で作業着やキャップを着用するようになり、発汗をきっかけとして症状が悪化した。
5月頃からは全身に症状が拡がり、仕事にも支障を来たすようになった。
8月に派遣先の勤務を終了すると症状は若干軽減したものの、就労等が可能な状態ではなく当院へ入院となった。
検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。
入院後の経過
足や腕を中心に、全身性のアトピー性皮膚炎が生じている患者さんです。
赤みやカサツキは全身に生じていますが、特に足の甲や足首の皮膚はゴワつきが強く、掻き壊しによる傷や出血もあり、自覚症のPOEMも28点(満点)と重症状態での入院でした。
これまでほとんど医療機関を受診しておらず、ステロイド外用へも抵抗があったためステロイドの使用歴もなし。
入院後は、野菜が苦手だという食生活の偏りを治療食で整えながらバイオ入浴にも取り組んだところ、皮膚炎は比較的スムーズに改善しました.
改善の過程では、鼠径部や腋の下をはじめとして表在のリンパ節に腫れが生じ、一時的に発熱もみられました。
これらの免疫反応は免疫が生まれ変わるときに見られる反応であり、各リンパ節内でリンパ球の再教育がなされていると考えることができます。
入院時に5476あったTARCが、退院時の検査では基準値に近い623まで低下していることから、皮膚炎が相当に改善していることがデータ上でも明らかです。
70日程の入院で免疫はまだしっかり落ちついていませんので、外来通院でフォローすることになりました。
ドクターズコラム
ステロイドを使用してこなかった人や使用経験が少ない人は、治療をする上で免疫の反応が早く生じ、入院期間が比較的短くて済む傾向があります。
反対にステロイド・プロトピックの長期使用者ではリバウンドも生じますし、皮膚の組織自体が脆弱化しているため再構成に時間がかかります。
患者さん経過をみていると皮膚や免疫が自然状態に戻ろうともがいているのがよく判り、薄いパラフィン状の皮膚が、時間をかけて厚くしっかりした皮膚に変わっていくことが観察されます。
爪で掻くとすぐに赤くなって滲出液が出ていた皮膚が、厚く強くなってくると、爪で掻いても簡単に傷がついたりしなくなり、このような変化を通じて患者さん自身も改善を実感していきます。