治療の現場から
再入院するアトピー患者さんはいますか?というご質問への回答
2022.08.02治療の現場から
こんにちは。ナチュラルクリニック21で入院担当をしている中川です。
入院に関するお問い合わせに対応する中で、「入院してアトピーが良くなっても、退院後にまた悪化してしまうことや再入院が必要となることはありませんか?」というご質問をたびたび頂きます。
私からは当院での事実をありのままに、「ひとことでアトピーの入院患者さんと言っても、重症度や状態は様々なので、中には再入院なさる方もありますし、退院後何年も好調に過ごしている方もいらっしゃいます。」というお答えをしていますが、「自分も退院したら悪化してしまうんじゃないか?」と不安を覚える方も少なくないようですので、このことについて、当院(久保院長)の考えをご紹介します。
アトピーは完治ではなくコントロールを目指すもの
当院の入院治療やバイオ入浴は、慢性疾患であるアトピー性皮膚炎をステロイドや免疫抑制剤などに頼らず良好な状態にコントロールすることを目指すもので、高い実績があることは、このサイトに掲載している症例や統計からもおわかりいただけると思います。
ステロイドを使わない治療(非ステロイド治療)を希望する日本全国のアトピー患者さんを受け入れている当院ですが、患者さんにとって退院は入院治療のゴールであると同時に、「自分でアトピーをコントロールして生活していく」というスタートでもあります。
特に注意が必要なのは、食生活の管理、バイオ入浴の時間確保、精神と肉体の疲労(ストレス)を溜めない生活習慣といった要素で、加えて、ペットにアレルギーが生じている人は、それらのアレルゲンから離れることなども重要になります。
退院後、スムーズに生活のリズムをつかんで絶好調という患者さんもいらっしゃいますが、退院直後に生活面の変化から多少なりとも悪化してしまう人が多いのは、致し方ないことだと考えています。
入院中は、食事、ストレス、入浴時間などベストな環境下にありますが、入院中に大切なことは、「条件が満たされれば私にはアトピー性皮膚炎は生じない(良好にコントロールできる)」ということを体験することです。
この体験があれば、たとえ退院後に悪化したとしても、入院中と比べてどの条件が欠けてしまっているのかに気づきやすくなり、ライフスタイルを見直すことができるからです。
退院していく患者さんにも、「急に生活が変わるのだから症状が不安定になるのは普通のこと。入院中に学んだことを実践して自分のペースをつかんで下さい。」とアドバイスをするとともに、退院後も入院病棟の看護師に気軽に相談ができる仕組みや、オンライン診療という方法も用意しています。
退院直後の症状のぐらつきを乗り越えたら、より症状が安定したという患者さんも多くいらっしゃいます。
体調・体質・事情はひとそれぞれ
アトピー性皮膚炎は乳幼児期の免疫の形成に根ざしており、治る病気ではなくコントロールする病気だと言うことを理解しておく必要があります。
入院時とは見違えるほど綺麗な肌を取り戻して退院していく患者さんも、「自分のアトピーは完治した」と勘違いしてはいけません。
「退院後はバリバリ動けていて発症前より元気です!」という方もいますが、体質や体調は個人によって異なりますから、「先に退院した○○さんは、○○をしても大丈夫だって言っていたから、自分もこれくらい大丈夫なはず」というような考え方ではなく、「自分は、これくらいまでにしておかないといけないな」という、自分の許容範囲(キャパシティー)を自覚したコントロールを身に付けることが大切です。
他の慢性疾患(例えば糖尿病など)で入院治療を受けていた患者さんが、退院した直後に暴飲暴食をしたり、医師からの指導を無視した日常生活を送っていたりしたら再入院のリスクが高まるのと同じように、アトピー患者さんも自覚を持った生き方を求められるのです。
再入院は「恥」ではありません
我々医療者側は、入院中の患者さんが退院後の再悪化をなるべく避けられるよう、様々な治療や指導、情報提供をします。
再入院される患者さんは、我々のそんな気持ちや努力を汲み取ってか、「恥ずかしながら再入院したいです」と遠慮がちにおっしゃることもあります。
当院は、再入院だからという理由で入院をお断りすることはありませんし、再入院を希望なさることは、患者さんが当院を信頼して下さっている証ととらえるようにしています。
「再悪化しても、本当に困ったらNC21があると思えることが日々の安心材料になっている」とおっしゃる患者さんもあり、我々はその期待に応えることが出来るよう、治療や入院環境のブラッシュアップに努めています。
また、再入院を経験した患者さんの中には、「初めての入院では入院生活に慣れて体調を良くすることに必死で、内面にまで手が回らなかったが、退院後になって心理面に向きあう必要性を感じた。」という人もあり、2回目以降の入院がその患者さんにとってプラスの転機になることもあるようです。
今後も再入院する方はいらっしゃると思います。
過去の患者さんの様子を見ると、現在進行形で入院治療に取り組んでいる患者さんは、同時期に入院なさっている患者さんの中に再入院の方がいらっしゃると不安になることがあるようです。
しかしその反面、再入院中の患者さんから勇気づけの言葉をかけられたり、再悪化した経緯を聴いて退院後の自分を戒めたりと、良い影響を受けていることも多いものです。
当院に入院して大幅な改善を経験した患者さんは、増えることはあっても減ることはありませんから、今後も再入院の患者さんは出ることでしょう。
私たちスタッフも患者さんから教わる点は多く、より良い治療を目指す刺激になっています。
自宅でバイオ入浴を行っている患者さんからのフィードバックを加えながら、バイオ入浴もより優れたものに進化していくと思います。
アトピーのコントロール方法を学ぶ気持ちで
入院なさるアトピー患者さんには、退院後、自宅でバイオ入浴を行う必要があるということを必ずお伝えしています。
そのうえで、バイオ入浴がアトピー性皮膚炎の症状をコントロールするにあたって、強力な手段であることは間違いない事実ですが、ただバイオ入浴だけを行えば良いという訳ではなく、健康的な食生活や精神面の安定、疲労やストレスを溜めすぎない生活習慣を実践することも同じように大切です。
これから入院なさる患者さんには、当院を「アトピーを治してくれる場所」ではなく、「アトピー症状をコントロールし、付き合い方を学ぶ場所」と考えて頂ければと思います。
参考症例:重症アトピーがノンステロイド入院治療で改善 退院後も好調な女性 症例:71
院長 久保 賢介 のプロフィール
1957年4月3日 福岡県 北九州市出身
2001年10月 有床診療所ナチュラルクリニック21 開設
所属学会:日本アレルギー学会/日本心身医学会
15年間以上、アトピー性皮膚炎患者の入院治療にあたっている。
詳しいプロフィール 医師・スタッフ紹介