治療の現場から

       

手を強く握れない、タオルを絞れないほどの皮膚炎が改善 症例:66

2021.12.22治療の現場から

30代 女性 入院期間2021年7月~8月

タオルを絞ることも出来ないほどの皮膚炎が生じていた女性が、入院1ヶ月後にはステロイドなしでも皮膚炎があったことがわからないほど改善した症例です。

症例写真は記事の後半に複数掲載しています。

入院までの経緯

幼少期に発症、強い皮膚炎が食事の養生で落ち着いたが・・・

幼少期にアトピー性皮膚炎を発症し、ステロイド外用を時々使用。小学校時代は首や肘、膝の関節に強く症状が出ており、中学生になると顔にも症状が出るようになった。

健康食品やカイロプラクティックを試すも効果は感じられなかった。

17歳でマクロビオティックを実践したところ皮膚炎は落ち着いたものの、体重が10キロ近く落ち、体調が良いとは言えない状態であった。

スキンケアで状態を保っていたが、蕁麻疹から皮膚炎が悪化

日頃からスキンケアに気を付けることで肌の状態は保てるようになっていたが、過剰とも言えるスキンケアを止めると、また症状が出る状況で、完全にコントロールすることは出来ていなかった。

入院の3年ほど前から蕁麻疹が慢性的に生じるようになり、顔にも皮膚炎が生じた。
近医にて酒さ様皮膚炎と診断を受け、手、体、顔にステロイド外用を行うようになったが、1年弱で効果が得られなくなった。

ステロイドを中止すると急悪化→入院へ

入院の4ヶ月前から自己判断で脱ステ・脱保湿。症状が急激に悪化し、顔、前腕、首、デコルテに強い痒みを伴う皮膚炎が生じた。ステロイドを使わない治療(非ステロイド治療)に理解のある医療機関をネット検索して当院を知り問い合わせ、入院希望で受診。後日入院となった。

検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。

入院後の経過

手の炎症が特に強かった

顔や首、お腹などにもアトピー性皮膚炎が生じている患者さんですが、中でも手首や手指の炎症が強く、入院直後は物を握るなどの動作にも支障が出ていました。

子育ての協力を得て1ヶ月予定の入院、変化は明確!

子どもさんの夏休みを利用し、親御さんに面倒を見てもらうことを依頼しての入院。
重症部分が局所的であることや、家庭の事情を加味して、当院としては短い1ヶ月間程度の予定で入院治療を行いました。

入院後の症状改善は順調で、特に強い皮膚炎が生じていた手首や手指(特に左手)は入院後1週間で滲出液が軽減し、1ヶ月後には皮膚炎があったことがわからないほど綺麗な皮膚が再生しています。

入院当初は出来なかったタオルを絞るような動作も、問題なく行えるようになりました。

また、入院時に腹部に生じていた乾燥や黒ずみを伴う皮膚炎や、肘の内側に生じていた症状も改善し、健康な質感の肌を取り戻しています。

慢性の蕁麻疹も変化

入院前は、汗をかいたりお風呂に入って少しあたたまると日常的に蕁麻疹が生じていたそうですが、入院生活では蕁麻疹が出たことは数回程度でした。

蕁麻疹は明確なアレルゲンが判ることは少なく、大半はストレスによる自律神経の過剰反応が原因です。入院中に行ったバイオ入浴は、長時間の入浴ということそれだけでもリラックス効果があり、自律神経が休まったのだと考えられます。

既婚女性は仕事、家事、育児(場合によっては介護も)を抱えてストレス下にある人も多いものですが、ときにはくつろげる環境も必要だと思います。

家族の協力で治療期間を延長

入院から1ヶ月時点で相当程度の改善が得られていましたが、退院後の自宅でのバイオ入浴について調整が必要であったことや、お子さんの面倒を見てくれる家族の協力もあり、入院期間は当初予定していた1ヶ月より少し延長となりました。

この延長期間のおかげで心身はより安定したようで、退院の際には重い荷物も持ち上げられるほど手の状態も改善し、ハツラツとした表情で退院なさいました。

ドクターコラム

症状の程度と家族の事情から、当院としては短い1ヶ月間程度の予定で入院治療を行った患者さんですが、入院中の症状改善は目を見張るものがありました。
※当院の入院期間などに関する解説はこちらのページをご覧ください。アトピー入院の期間・比較的早く退院できるケースとは

自覚症の検査POEMについて

検査結果にPOEMという項目がありますが、これは過去1週間のアトピー性皮膚炎の自覚症を患者さんが回答する方式で行う検査方法です。

この患者さんの入院時と退院時の各設問への回答を比較してみます。

Q1 この1週間で、皮膚のかゆみがあった日は何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → 毎日(退院時)4点

Q2 この1週間で、湿疹のために夜の睡眠が妨げられた日は何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → なし(退院時)0点

Q3 この1週間で、湿疹のために皮膚から出血した日は何日ありましたか?
6日(入院時)3点 → 2日(退院時)1点

Q4 この1週間で、湿疹のために皮膚がジクジク(透明な液体がにじみ出る)
した日は何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → なし(退院時)0点

Q5 この1週間で、湿疹のために皮膚にひび割れができた日は何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → 毎日(退院時)4点

Q6 この1週間で、湿疹のために皮膚がポロポロと剥がれ落ちた日は
何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → なし(退院時)0点

Q7 この1週間で、湿疹のために皮膚が乾燥またはザラザラしていると
感じた日は何日ありましたか?
毎日(入院時)4点 → 2日(退院時)1点

このように入院の前後で回答を比較すると、この患者さんの症状が重症状態から軽症レベルまで軽減していることがよくわかります。

掻き傷を早く治すには?

患者さんがバイオ入浴を行うようになると、皮膚の傷の治りが早くなったことに多くの人が驚きます。

ふつう、アトピー患者さんは免疫バランスがTh2優位のアレルギー免疫に偏っていて、体内ではIL4(インターロイキン4)、IL13というサイトカインが過剰となり、フィラグリンやセラミドといった皮膚の天然保湿因子(ナチュラル・モイスチャライジング・ファクター)の産生が減少しています。

これによって【皮膚のバリア層の破壊→皮膚の乾燥が進行→バリアがなくなった皮膚に病原性微生物が繁殖→新たな炎症と皮膚の破壊が進む】という負の循環が生じているのですが、バイオ入浴を行うことにより免疫状況は一変し、悪循環の根本理由が解消に向かうため、傷の回復が早くなるのだと考えられます。

この患者さんのケースでは、特にマラセチアという皮膚の酵母様真菌の影響が強く、そのコントロールがテーマでした。

マラセチアは油脂を好むため食生活の管理も大切になり、炭水化物や油脂は減らしてタンパクを増やすという栄養バランスも大切なポイントです。

食事の制限はどの程度必要か?

この患者さんのように、アトピー改善を目的としてマクロビオティックや完全菜食、ヴィーガンを実践した経験を持つ(あるいは行っている)患者さんもたびたびいらっしゃいます。

当院は開院からしばらくは、がんの患者さんを中心に入院治療を受け入れていたため、当時は肉や魚を排除した治療食を提供していました。

しかし、全国からアトピー患者さんを受け入れている現在の入院治療食は、適度に魚介類や鶏肉などを組み込んだメニュー設定としています。

タンパク質不足は✖

皮膚の代謝が激しいアトピー患者さんの場合は、タンパク質が不足すると皮膚のコラーゲンの生成が低下してバリア機能が弱くなったり、皮膚炎の治癒を遅らせたりする可能性があるためです。

また、タンパク質不足が続くと白血球数が減少して免疫機能が低下する可能性もあり、過度な食事制限や菜食に偏った食生活では、体重の過度な減少やホルモンバランスの乱れなども生じやすくなります。

別のページでも再三にわたって書いていますが

【日本古来の食事を腹8分】

これこそが当院の食事療法の基本であり、アトピー改善だけでなく、健康的な日常生活を送るための近道だと考えています。

食事療法に関する記事はこちら

Instagramでもアトピー食事療法のポイントや入院治療食のレシピを公開しています。

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