治療の現場から
枕や布団が濡れるほどの滲出液。親の介護を頑張り続けていた女性 症例:69
2022.04.01治療の現場から
50代 女性 入院期間 2021年8月下旬~10月初旬
ステロイド治療でコントロールが得られず、ステロイドを使わずになんとかアトピーと付き合っていた女性が、症状悪化と介護疲れが重なり、日常生活が立ち行かなくなって入院した症例です。
症例写真は記事の後半に複数掲載しています。
入院までの経緯
生後まもなくアトピーと診断され小児喘息を併発。
親がアンチステロイド派だったこともあり、ステロイドは悪化時に使用する程度だった。
学生時代は内科で処方されたステロイド外用を年に1~2回程度使う程度。
21歳、結婚後の生活変化から悪化しステロイド治療を受けたが、その後ステロイドを中止すると急激に悪化して大学病院に入院した。
ステロイド軟膏をはじめとした治療で改善し、28歳で2人目の子供を出産するまでは、皮膚科で処方されたあらゆる薬剤を使用していた。
その後、痒疹が生じるようになり液体窒素療法を受けたが、ステロイド治療でも皮膚炎がコントロールできないことに疑問をもち、民間療法を行いながらステロイド使用を中止。離脱に伴って症状が悪化したが、1年ほどで生活に支障がない程度まで改善した。
40歳で3人目の子供を出産後、仕事のストレスもあってか症状が悪化し、1年程寝たり起きたりの状態となった。
この間にステロイドを使用したのは1ケ月間程度で、離脱症状は1週間ほどであった。
3人目の子が生後間もなくアトピーと診断されたため、本人もステロイドを使わない治療(非ステロイド治療)を選択。
症状に波はあるものの、調子が良い時はアトピーの事を忘れて生活ができており、夏場には悪化するが1~2ヶ月程で改善するというサイクルが続いていた。
しかし、入院の前年は、例年であれば症状が治まる(夏が終わる)9月頃になっても落ち着くどころか悪化に向かい、年が明けて3月に母親と自分のヘアカラーを行ったことでも、追い打ちをかけるかのように悪化した。
入院の1~2ヶ月前からは滲出液で枕や布団がぐっしょり濡れるほどになり、皮膚炎は髪の生え際や耳、首から手の甲や顔に広がって、髪の毛とマスクで隠しながら生活していた。
近くに住む、認知症で介護が必要な母や、前年に大けがを経験した父の生活や仕事をサポートしていたが、アトピー症状のために明け方まで眠れない日が続くようになり、非ステロイド治療に理解のある医療機関をインターネット検索して知った当院へ問い合わせ、後日入院となった。
検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。
入院後の経過
入院の前年から悪化傾向が続いていたという患者さんですが、仕事や家事に加えて、父親の長期入院や認知症の母親の介護、コロナ禍でのストレスや疲れが悪化の引き金になっていたと考えられます。
入院時は、耳や首、腕、手の甲、膝の裏などの症状が強く、特に耳には滲出液によって髪の毛が貼り付いてしまっていました。生え際などにも皮膚炎があり、本人は抜け毛も気になっているとのこと。
入院後は、治療と並行してバイオ入浴にも取り組んだところ、直後から傷の軽減が確認できるようになりましたが、入院10日目から1週間にわたって発熱が生じました。
悪寒や倦怠感、節々の痛み、リンパ節の腫れなどもあり、39℃を上回る高熱となった日もありましたが、これはバイオ入浴による自然免疫の反応です。
発熱中に行った血液検査では、皮膚炎の程度を示すTARCや急性期のアレルギー炎症を反映する好酸球は大幅に改善し、手の甲や首の後ろの傷も減少していましたが、手足や体幹には膿を伴う湿疹(膿痂疹:のうかしん=レンサ球菌や黄色ブドウ球菌によって引き起こされる皮膚感染症)が生じました。
しかし、膿痂疹も熱が下がる頃には消失に向かい、全身の皮膚症状が改善傾向となりました。
患者さん本人も、高熱が落ち着いた頃から皮膚症状が良くなったことを実感しており、同じくアトピー性皮膚炎(軽症)である中学生の娘さんに改善の様子を電話で話すとうらやましがられるとのことでした。
入院の問い合わせ段階から、「両親の介護を大学生の長女や、海外に住む妹に任せられる1ケ月間程度で退院したい」と相談を受けていましたが、実際に約1ケ月後にはTARCは基準値目前の498に、好酸球も17.6%という高値が2.3%と基準値内まで低下し、目標通りに退院なさいました。
自覚症のテストPOEMでも入院時の28点(最高値)から3点まで下落(改善)しており、1ヶ月程の入院で大幅な改善が得られたことからも、軽症アトピーの娘さんをはじめ家族も自宅でのバイオ入浴に前向きになっての退院でした。
ちなみにIgEという検査項目は入院中に上昇していますが、この項目は反応が鋭敏ではないため、現在の状態をダイレクトに示してはおらず、治療開始から半年以上経過してから低下し始めることも多く見られます。
ドクターコラム
家族の介護の事情から、当院としては短い1ヶ月間という期間を設定して入院なさった症例です。
当院でのアトピー性皮膚炎の入院治療期間は、通常2~3ヶ月間が前提になりますが、中には何らかの事情によって、1ヶ月間程度の短めの期間で退院せざるを得ない患者さんもいらっしゃいます。※全体に占める割合は低いです。
過去の記事、アトピー入院の期間・比較的早く退院できるケースとは でも解説していますが、短めの入院期間で退院可能な患者さんとしては
・皮膚炎の状態が中等症以下である
・お薬の使用状況(長期間ステロイドやプロトピックの使用が無い・強いリバウンドの可能性が低い)
・既に食事のコントロールが出来ていて過食や肥満がない
・精神的に安定していて睡眠も安定傾向にある
・入院中や退院後、積極的にバイオ入浴を理解して取り組むことが出来る
などが挙げられます。
この患者さんも、予め(当院としては)短い入院期間を予定していたため、発熱していた期間以外は当院職員にバイオ入浴や食事療法に関する質問をしたり、退院後の自宅でのバイオ入浴に関する計画を速やかに進めたりするなど、短い入院期間を充実させ、沢山の情報や知識を吸収できるようにと務めていらっしゃいました。
忙しい人にこそ入院治療が向く理由
日常の仕事や家事に加え、家族の介護やお子さんの世話など、生活の中の役割が多く頑張り過ぎて体が悲鳴を上げている人ほど、入院で治療を受けるとともに忙しい日常から離れ休養することでも、心身の癒しが劇的に進む場合があります。
責任感や周囲の人を大切にすることは良いことですが、自分の心身の健康を置き去りにすることがないよう、親や子どもなど大切な人を扱うのと同じように、自分の事も大切に扱って頂きたいと思います。
このように環境を変えることによって、解決しなければならない問題点に気が付き、退院後の方向性が見えてくるという事もしばしば生じます。