治療の現場から

       

滲出液の黄色いかさぶたが消え見違える肌を取り戻した女性 症例:70

2022.05.10治療の現場から

20代 女性 入院期間2021年9月~11月

顔の強い脂漏性皮膚炎をはじめ、全身にアトピー性皮膚炎が生じていた女性が、見違える肌を取り戻して退院した症例です。

症状の経過説明

症状の経過説明 症状の経過説明 症状の経過説明 症状の経過説明

入院までの経緯

未熟児(800g台)で出生。
離乳食が始まると口の周りに湿疹や赤みが生じ、複数の食物アレルギーが判明したため、以後、アレルギー除去食を行う。

小学校時代は、春の花粉の時期だけ、顔、肘、膝裏の痒みや赤みが出ていて、中学校でも顔に軽度の赤みがみられる程度だった。

高校1年生になると顔の赤みにステロイドを時々使用するようになり、カポジと診断を受けたこともあったが、ステロイドやプロトピック外用と抗アレルギー剤内服により、見た目上の症状は改善。

18歳頃から1日中全身に痒みを感じるようになって落屑や抜け毛が増えた。
滲出液の臭いも気になるようになり、就学困難な状態が続いて引きこもりとなってパニック症状が生じることもあった。

知人から自然療法、食事療法の指導を受けるようになって初めて脱ステ。3ヶ月間ほどで痒みがなくなり皮膚の状態も整ったが、食事制限から解放されると心理的なストレスが原因で過食となり再悪化した。

その後、湯治で症状が改善して2年間はステロイドなしで生活できアルバイトもしていたが、入院の半年ほど前から痒みによって皮膚を掻き壊すことが増え症状が悪化した。

市販の軽いステロイドを数回使用したところいったんは少し改善したが、その後悪化傾向となり、特に顔の滲出液が増え固まって洗顔も出来ない状態に。

このような状態が半年近く続き、外出や人と会うことも出来ない生活となっていたため、皮膚炎の治療に加え今後の人生を見つめ直す必要も感じていた。

ステロイドを使わない治療(非ステロイド治療)を希望し、インターネットで知った当院へ問い合わせ、外来を受診。後日入院となった。

検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。

検査結果

入院後の経過

入院時は脂漏性皮膚炎特有の多量の滲出液が顔の広範囲に痂皮(かひ=皮膚の表面で固まった滲出液)を形成していて、他人はおろか家族と会うことも気が重かったそうですが、入院日から治療と並行してバイオ入浴を行ったところ、数日で痂皮がはがれていきました。

一週間もしないうちに顔の痂皮はなくなり、その変化に当院スタッフも驚くほど。

また、他者と関わることに課題を感じていたようですが、入院の翌日に他の入院患者さんと交流できる院内行事があったこともきっかけとなり、周囲の患者さんとも徐々に打ち解けて、一緒に散歩へ出かけたりすることも増えました。

目に見える皮膚炎だけでなく検査結果の改善もスムーズで、アトピー性皮膚炎の程度を示すTARC、急性期のアレルギー炎症やアレルギー体質を反映する好酸球、細胞の破壊の増加に比例して上昇するLDHが、2ヶ月間の入院治療で基準値内や基準値目前まで低下しています。

同様に顔が黄色いかさぶたに覆われていた状態から、入院治療で改善した症例

黄色いかさぶたに覆われた顔や首も改善  入院期間2019年2月~3月 症例:50

ドクターコラム

顔、首を中心としたアトピー性皮膚炎の悪化のために、就学やアルバイトなどの社会生活が困難になっていた女性患者さんです。

これまでも症状が軽減した時期はあったものの、精神的なストレスが引き金になって過食となり皮膚症状をぶり返していたとのこと。

顔の黄色いかさぶたは、皮脂腺(脂の分泌腺)が多くある部位に集中しているのが判りますが、マラセチアという酵母様真菌が増殖したことによって生じる、脂漏性皮膚炎と呼ばれる炎症で、改善には食生活の管理が欠かせません。

アトピー性皮膚炎の食事療法というと、「卵アレルギーだから卵を避ける」というような除去食を思い浮かべる人が多いのですが、成人のアトピー性皮膚炎ではそうではありません。

この症例のように小児期に食物アレルギーを発症した患者では、食品に対するRAST反応(抗原別アレルギー検査)は残存していますが、経口摂取している内に免疫トレランス(人体が食べ物だと認知するとアレルギー反応を起こさなくする機構)という反応が誘導され、アレルギー反応は生じていないのです。

海外で行われている検査で、食品に対するIgG抗体を遅延型反応として検査するもの(いわゆる食品の遅延型アレルギー検査)がありますが、アレルギーを止めるブロック抗体を見ている可能性があるため、当院ではあまり重要視していません。

そのため、当院のアトピー入院治療では、強いアレルギーが生じる食品だと判断した場合は除去した食事を提供しますが、軽度の食物アレルギーに関しては厳密な除去対応は行いません。

アレルギー性皮膚炎では、マラセチアや黄色ブドウ球菌のような皮膚の病原性微生物感染が最大の問題であり、その増殖を促している原因は、食品の種類より量(カロリー)である事が多いのです。

また、この患者さんは対人関係への苦手意識やパニック症状、ひきこもり状態などを経験していましたが、当院にアトピーで入院する患者さんの中には、これらの精神面・社会面の課題を抱えている患者さんも多くいらっしゃいます。

そういった課題を持つ患者さんほど入院を決めるには勇気や思い切りを要するものですが、治療で体調が改善するにつれて精神面でも安定を取り戻し、将来にも希望や展望が描けるようになるものです。こういった患者さんが社会復帰できるようサポートすることも、当院の社会的な役割だと考えて診療にあたっています。

 

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