治療の現場から
片道10時間の大移動。塗り薬へのアレルギーも見つかった男性 症例:79
2023.09.13治療の現場から
20代 男性 2023年 52日間入院
入院までの経緯
生後間もなくアトピーを発症したが症状はそれほど強くなく、高校生までは薬を使用せずに保湿程度で済んでいた。
成人して地元外で就職すると不規則な生活に。アトピー症状が酷いときだけステロイド外用(ベリーストロング)を使用し、顔にはプロトピックを使用していた。
3年後、地元に戻った頃からアトピーは悪化。蕁麻疹が1週間続き、一週間の検査入院をしたこともあった。
その後もアトピーに加えて、2年に一回程度、蕁麻疹が出ることがあった。
アトピーが悪化したときのみ近医皮膚科を受診してやり過ごしていたが、入院の10ヶ月前からアトピーの痒みが全身的に生じるようになり、皮膚科へ定期通院するようになった。
3ヶ月間通院しステロイド外用など多数の薬を処方されて症状は幾分改善していたが、途中からステロイドが効かなくなり痒みが増すようになったため、入院4ヶ月前にステロイドを中止。
治療を模索する中インターネットで当院を知って入院を検討したが、体調(皮膚症状)が悪く、自宅のある四国から当院まで移動することが困難で断念。地元の薬局で漢方薬など試したが効果は得られずに皮膚炎は拡大した。
症状が悪い状態は続いていたが、やはり自分には当院での入院治療が必要なのではないかと考えるようになり問い合わせ、後日入院となった。
検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。
入院後の経過
公共交通機関で10時間以上かけて来院した20代の青年です。入院前は発作的に痒みが激化することがたびたびあり、移動への不安も大きかったとのことですが、なんとか当院までたどり着いてくれました。
初回の検査では、炎症の程度を示すTARC6531、自覚症状のPOEMが25(最大28)と、強い皮膚炎と痒みが生じていることが数値からも見て取れます。
また、アレルギー体質を反映するIgEは当院に入院する重症アトピー患者さんの中では低値ですが、このような患者さんは反比例するように好酸球の値が高いことが多く、この患者さんも好酸球27.0とかなりの高値での治療開始となりました。
入院後は、他の多くの入院患者さんと同じように非ステロイド薬剤や食事療法での治療とあわせてバイオ入浴にも取り組み始めましたが、たびたび発作的に痒みが増すことがあり、そのタイミングから軟膏などの外用薬にアレルギー反応を起こしていることが疑われました。
そこで、当院で処方することがある非ステロイドの外用薬を局所的に試し塗りするなどして皮膚の反応を観察したところ、複数の外用薬で塗布後の皮膚に蕁麻疹のような湿疹や赤み、痒みが生じました。
このようなテストを数日続けることで体質に適合しない外用薬が特定され、適合するものだけを選択して使用することで、効果的にアトピー症状や痒みそのものが軽減していきました。
入院から2週間が経過する頃には患者さん自身も症状の改善を実感しており、日中に痒みを感じる頻度も大幅に減少。その後も経過は順調で、肌の乾燥や痒み、ゴワつきや赤みも日を追うごとに軽減していきました。
退院後の自宅での生活やバイオ入浴の自宅導入を見越し、なるべく早く退院して生活環境を整えたいという希望があり、改善も順調であったことから当院のアトピー入院治療としては比較的短い1.5ヶ月での退院となりましたが、退院する頃には夜間入眠中に体を掻くことも減ってきたと話してくれました。
退院直前に行った採血の結果では、1ヶ月時点よりも炎症の程度を示すTARCや好酸球が若干上昇していますが、この表には含まれていない白血球数をはじめとする各種の検査項目を総合的に見ると、皮膚炎は全体的に改善傾向であることがうかがい知れます。
また、POEMの値も1ヶ月経過する日までに大幅に改善し、その後も自覚症状の悪化の訴えがなかったことから、退院して自宅療養へと移行なさいました。
ドクターコラム
遠方であることを理由に、一度は当院への入院を諦めたことがあったというこの患者さん。
当院のある飛騨高山は、岐阜県の山間部に位置し、新幹線が止まる名古屋駅や岐阜羽島駅、富山駅からは車で2時間程度離れています。
空港も同じように離れていることから、入院患者の大半を占める遠方からの患者さんには、移動の負担は小さいものではありません。
それでも、今年(2023年)も北海道から沖縄、九州の離島、東北、四国など日本各地から患者さんが入院なさっていて、遠く離れた場所での入院生活に踏み切られる患者さんには敬服します。今後もその期待に応えられるよう、アトピー治療と研究を進めて行きたいと考えています。