治療の現場から
脂漏性皮膚炎の黄色いかさぶたが入院1ヶ月で大幅改善 症例:87
2024.04.02治療の現場から
20代 男性 2023年~2024年 入院112日間
入院までの経緯
生後すぐにアトピー性皮膚炎と診断を受けた。
乳児健診では脂漏性皮膚炎とも言われ、悪化時にはステロイドを使用。
幼少期はアトピー治療のため、関西地方の自宅から東北地方の医療機関まで年に1度通院し、治療を受けていた(ステロイド治療)。
小学校高学年で症状は小康状態となるが、中学進学後に悪化。
ジベルバラ色粃糠疹(じべるばらいろ ひこうしん)を発症してステロイド治療をするも、はじめの2年間は症状がコントロールできず苦労した。
ジベルバラ色粃糠疹とは、10代から30代に多く見られる皮膚の疾患で、胴体に生じやすく、かゆみを伴う赤い発疹が特徴です。
感染症に対するアレルギーが原因と疑われていますが、まだはっきりとしたことはわかっていません。
発疹は点状から小指大のものまでさまざまです。
かゆみが強い場合は抗ヒスタミン剤の内服薬やステロイド外用が使われますが、時間の経過で自然と治癒することが多い疾患です。
その後いったん症状は落ち着いたが、徐々にステロイド外用が効かなくなり、高校2年で治療方針を転換して、脱ステ治療で有名な地元の病院で脱ステロイド・脱保湿による治療を開始した。
脱ステ後のリバウンド症状はそれほど重くなく、高校3年の夏にはいったん回復。
大学2年生までは皮膚症状に悩まされることなく過ごしていたが、大学3年生で顔に脂漏性湿疹の症状が出るようになり、翌年の就活中には更に悪化してアトピー症状も全身にひろがりはじめた。
大学を卒業し就職すると症状は少し改善したが、仕事が忙しくなるにつれて悪化傾向に。
当院入院の1年2ヶ月ほど前からは、悪化状態が続き、仕事を休職して自宅療養するも改善の糸口が見つからない状態であった。
母親の知人から当院の話しを聞き、入院を希望して外来を受診。後日入院となった。
検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。
入院後の経過
入院時、顔面や首、上肢を中心に強い皮膚炎が生じていた患者さんで、特に顔から首にかけては、脂漏性皮膚炎による滲出液が黄色いかさぶた状になり、塊を形成してました。
また、血液検査ではマラセチア等の酵母様真菌(大まかに言うとカビ)への反応が強く、加えて黄色ブドウ球菌の感染も広がっていることがうかがえました。
顔の症状が強いため、視力が悪いにもかかわらずメガネやコンタクトレンズを着けることができず、配布した資料を読むことにも苦労する状態から入院治療を開始。バイオ入浴にも取り組みました。
入院から2日後には顔の痂皮(かひ=黄色いかさぶた)の一部が少しずつ取れはじめ、1週間が経過する頃には、痂皮に覆われた範囲が小さくなっていることが明らかにわかるほど。
入院から1ヶ月が経過する頃には皮膚炎の程度を示すTARCや、急性期のアレルギー炎症を反映する好酸球が基準値内となるなど、アトピーの炎症は概ね治まりましたが、イソシアネート(ポリウレタンの原料でウレタン系の塗料などに多く含まれ、香料を閉じ込めたマイクロカプセルにも使われる)への強い反応が見られるなど、化学物質過敏症の傾向にあることが判明しました。
ご本人は、自信を持って社会復帰できる状態まで症状を改善・安定させてから退院することを強く希望しており、金属等へのアレルギー検査(パッチテスト)も実施。
自身の体質をより深く理解するとともに、皮脂分泌を抑えられるようなケアを行いながら退院後の不安要素を減らして退院なさいました。
退院直前には、イソシアネートへのアレルギー反応は改善傾向ではありましたが、香料を含んだ洗剤等の生活雑貨や、各種の塗料、新築の建物などに注意するよう助言をして送り出しました。
現代人の身の回りには、イソシアネートやPEG(ポリエチレングリコール)など、化学物質過敏症の原因となり得る物質が多数存在し、残念ながらそのすべてを避けながら社会と関わって生活することや、医学の力で過敏症を完治させることは出来ません。
自分が何にアレルギー反応を起こすのかを知り、有効な自衛策を続けていくことが何よりも大切になります。
スタンプ培地検査での変化
培地表面の小さなツブツブが黄色ブドウ球菌(黄色ブ菌)のコロニーです。
本来、この培地は濃いオレンジ色なのですが、黄色ブ菌が繁殖すると培地内の成分が分解されて黄色く変色します。
この患者さんの場合、入院時はツブツブのコロニーが無数に繁殖し、全体に黄色くモヤがかかったようになっていますが、退院時にはツブツブが明らかに減少し、培地もある程度のオレンジ色を保っています。
※退院時の培地に出ているブ菌より大きな白濁したコロニーは、バイオ入浴の浴水中で活躍するバチルス菌だと考えられます。
ドクターコラム
非常に真面目でストイック、丁寧な行動や言葉遣い印象的だったこの患者さん。
入院前は1年間以上にわたって顔の皮膚炎が悪化しているが続き、仕事はおろか外出もままならい状態だったとのことでしたが、入院中は症状が改善するに従って他の患者さんとの交流も増え、患者さん同士数名で散歩などに出かける姿もよく見かけるようになりました。
退院直前に、この症例記事として掲載することについて同意確認をした際には、「自分のような重度の脂漏性皮膚炎の治療症例をネットで探しても情報があまり見つからなかったので、見る人の参考になれば嬉しい」と、快く了解してくれました。
脂漏性皮膚炎は、皮脂腺の分泌が過多となっている部位に皮脂が大好きなマラセチアの感染が生じて発症しますが、そこにステロイド外用を塗布すると感染拡大が生じて、多くの場合症状は激しく悪化します。
皮脂腺の分泌過多には、アトピー体質特有の免疫低下と食生活の問題(カロリー過多)、遺伝的素因が影響しており、脂漏性皮膚炎の治療には、免疫の改善、カロリー抑制、抗真菌剤の使用が基本となります。
また、遺伝的・体質的な問題がある場合にはレーザーやフォト治療を併用することも有効です。
美容皮膚科も標榜している当院では、脂漏性皮膚炎の症状によっては、受診した患者さんにこのようなアプローチをお勧めすることもあります。