治療の現場から
掲載症例の見方
2019.07.30治療の現場から
血液マーカー検査の意義
当院では、入院治療されたアトピー性皮膚炎患者さんの同意の下、ほぼ全症例の血液マーカー検査と、写真による皮膚の変化を記録しています。
単に画像的な変化だけでなく、体内で生じている免疫的な変化によって症状の改善を確認することは、民間療法や健康食品と言ったいわゆるアトピー産業と一線を画すために必要だと考えています。
アトピー性皮膚炎の血液マーカー
アトピー性皮膚炎は、IgEが引き起こす蕁麻疹のような抗原接触から20分以内に生じる即時型反応ではなく、抗原接触から数時間以降に生じる遅延型反応です。
急性期の病変(浮腫性紅斑)はTh2タイプの反応であり、慢性期にはTh1タイプの反応が加わるとも言われています。
主な血液マーカーの解説
TARC(ターク) 単位pg/ml 基準値等は下表を参照
アトピー性皮膚炎の程度を示す最も鋭敏な指標で、皮膚の免疫を担当する樹状細胞や血小板が分泌します。
アレルギーを起こすリンパ球を刺激するために分泌する化学物質(サイトカインの1つ)で、Th2 細胞を刺激します。
LD/IFCC 基準値 120~245 (U/L)
細胞が分泌する酵素の1つで、皮膚炎では細胞の破壊の増加に比例して上昇するため、値の変化は皮膚炎の程度の指標となります。
※従来LDHと記載していましたが、ISCC法からIFCC法への国際標準化に伴い、記載をLD/IFCCにあらため基準値を変更しました。
好酸球 Eosino 基準値 7%以下
浮腫性紅斑を引き起こす白血球中の好酸球の割合で、Th2細胞がIL-5を産生するために上昇します。
急性期のアレルギー炎症を反映し、IgEとは反比例することが多く見られます。
長期的にはアレルギー体質を反映します。
IgE 基準値 170 IU/ml以下
Ⅰ型アレルギー反応を引き起こすアレルギー抗体の量で、特にじんま疹や花粉症等の即時型反応に関与しています。
アトピー性皮膚炎は本来Ⅰ型の即時型反応ではないので、ダイレクトに現在の状態を示しているわけではありませんが、長期的には体質を反映します。そのため、皮膚炎の程度を示す指標(マーカー)としての意義はありませんが、大まかなアレルギー体質の程度の指標にはなります。
入院患者さんの症例では、入院中、他の検査項目が改善しているにもかかわらずIgEの値には変動が見られなかったり逆に上昇したりすることがあります。
これはIgE抗体が反応する相手となる抗原(この場合、主に黄色ブドウ球菌やマラセチア等の真菌類)が急激に減少したため抗体の消費が減ったものの、抗体の産生には急ストップがかからず、IgE抗体がダブついている状態だと考えられます。
抗原がなければ抗体の産生は徐々に減少しますので、バイオ入浴を行うアトピー患者さんでは、入浴開始から少し遅れ2ヶ月から半年程度の時間をかけてIgEの値が低下・改善してくることが多く見られます。
POEM アトピー性皮膚炎の自覚症状を含めた重症度の指標
アンケート方式で自己採点も可能な評価手法。方法は簡便ですが皮膚炎の重症度と相関します。
28点満点で重症が10~20点、最重症は20~28点が目安と考えられます。
その他、当院が重要視している検査
RAST 特異的IgE抗体の定量検査
血液検査で行うアレルゲン検査で、アレルゲンごとに6段階で評価されます。
抗原に接触しなくても上昇することがしばしばあり、現在の皮膚炎を反映するものではありませんが、アレルギー反応の50~70%程度を反映しているといわれていて、抗原の推定に役立ちます。
成人型アトピーの特徴としては、マラセチアやカンジダという酵母様真菌(カビ)と、黄色ブドウ球菌の大量感染がアレルゲンになっています。
臨床的には抗原との接触が減ると3ヶ月から半年の期間をおいて減少します。
Th1/Th2 Th1細胞とTh2細胞の比率
T細胞は免疫を制御するリンパ球ですが、ヘルパーT細胞は免疫を高める役割をしています。
その系統にはTh1(進化の古い時代にできた自然免疫)があり、IFN-γやIL-2を分泌してNKやTCLマクロファージといった細胞性免疫を動かします。
もう1つの系統として、Th2(進化の新しい時代にできた獲得免疫)がありますが、これはIL-4やIL10を介してBリンパ球刺激しIgE抗体を産生させたり、IL-5を介して好酸球を活性化させるなど液性免疫を動かします。
アトピー性皮膚炎では、この比率がTh2優位になっていると言われています。
バイオ入浴(Biological Spa Care:BSC)は継続が必要です
人体の免疫システムは3歳までに形成が終ります。
成人型アトピーの方は残念ながら免疫システムがアレルギーに偏って形成されてしまっていますので、アレルギー体質は残念ながら一生続くのだと考えてください。
乳幼児期からのバイオ入浴はアレルギー体質を予防する効果が期待されますが、免疫システムの形成を終えてから開始する場合には、症状をコントロールする手段だと考えてください。
いったん症状が消えて治ったと思っても、この入浴法を中断するとアトピー性皮膚炎が出てくる可能性は高いと思われます。