治療の現場から
SNS情報で自宅脱ステに踏み切った女性 激悪化で入院し急速に改善 症例:86
2024.03.05治療の現場から
30代 女性 2023年 入院日数36日間
入院までの経緯
小児期よりアトピーと診断。夏になるとひじの内側やひざ裏に汗疹(あせも)ができて、軟膏を塗っていた。
成人後も、首やひざ裏など汗をかきやすい所に湿疹が出るたびに、近医皮膚科を受診してステロイド軟膏を使用。
入院の4~5ヶ月前より顔の湿疹が悪化しはじめ、皮膚科を受診してステロイドを塗布するようになったが、2ヶ月程で効き目が減弱してきた。
この頃、親族から、重症アトピーを克服した人が発信するSNSの記事を教えてもらい、記事を参考に脱ステロイド(入院の約2ヶ月前)やサプリメントの使用を開始、当院のSNSを参考に食事療法にも取り組んだ。
当初、経過は良好にも思えたが、皮膚炎は顔だけでなく全身にも拡大して、入院の約1ヶ月前から悪寒、発熱、滲出液などが生じるようになり、SNS発信者から当院を紹介されて問い合わせた。
問い合わせから6日後に外来を受診。受診時には希望する病室に空きがなく、空室が出るのを3週間近く待っての入院となった。
検査データの見方は掲載症例の見方をご覧ください。
入院後の経過
初診時の検査で炎症の程度を示すTARCが14945と、重症状態で受診なさった患者さんです。
希望病室が満床だったため入院日までしばらく日にちが空きましたが、自宅療養中にTARCの値は中等症程度まで低下。
ステロイド離脱の最悪化期を抜けた様子でしたが、入院時にも自覚症状のPOEMは満点・最重症の28点。
急性期のアレルギー炎症を反映する好酸球や、皮膚炎では細胞の破壊に比例するLDH(LD/IFCC)も非常に高値で、体内では強い炎症が続いていることがうかがわれます。
カビや黄色ブドウ球菌への反応が強く、急性期から慢性期に移行している中で入院治療を開始しました。
入院前の食生活を知るために摂取している脂質のバランスを調べる検査ではアラキドン酸比の数値が良好で、このことを伝えると、当院の食事療法の情報を参考にしていたと教えてくれました。
入院直後は痒みや滲出液などのために夜間に目が覚めることも多いとのことでしたが、治療を開始してからの変化は早く、2週間経過の検査でTARCは154、好酸球5.5%、LD/IFCCも181と基準値内まで改善しました。
もともと活発でスポーツなど体を動かすのが好きだとのことで、症状の改善が進むに従って、散歩から軽いジョギング、そしてランニングへと少しずつ運動も出来るようになりました。
外来受診時の検査結果から、当初は2~3ケ月間程度の入院期間を想定していましたが、非常に順調に改善が進んだことで1ヶ月少々での退院。
退院前の検査でもIgEを除いては基準値内で、POEMは0点と自覚症状もまったくないレベルです。
皮膚の状態も、全身の赤みや腫れ感が引いて普通肌に近づき、著明だった口元や首周辺の落屑もなくなりました。
ドクターコラム
この症例ではバイオ入浴により好酸球の低下が著しく、代わってモノサイト(=単球:白血球の一種で人体の白血球の2%~10%を占める)の急上昇が観られました。
マクロファージや樹状細胞という免疫細胞に分化(変化)することができるモノサイトは、免疫系においては、①食作用、②抗原提示、③サイトカイン産生という3つの主要な役割を担っていて、感染や炎症に対する反応の一部として機能します。
モノサイトの上昇は、体が感染症や炎症と戦おうとしている免疫系の反応を示していて、免疫の変化を示すものと考えられ、当院でのアトピー治療の過程においては歓迎される要素ですが、特定の疾患(ある種の自己免疫疾患等)によって上昇することもあるため、検査や経過の観察が必要になります。