治療の現場から

       

多数の入院患者さんが申請する健康保険の傷病手当金を、社労士の中川が解説

2022.04.07スタッフブログ

今回は、患者さんが当院への入院治療中について申請できる可能性がある、社会保険(健康保険)の傷病手当金についての解説記事です。

数ヶ月間の入院治療は、患者さんの経済面での負担も小さなものではありませんが、当院に入院する社会人の方の多くは、健康保険の傷病手当金という制度を使用なさっています。

入院についての問い合わせを下さる方の中には、会社を休職した経験がないなど、傷病手当金についてあまりご存知ない人も少なくありませんので、概要を社会保険労務士の資格を持つ入院担当の中川が解説します。

なお、記事の主な目的は、当院への入院を検討なさっている患者さんに傷病手当金という制度の存在と概要、注意点を紹介することですので、細かい支給要件や金額の計算式などは一部割愛します。

より詳しく知りたいという方は、加入なさっている社会保険の保険者(協会けんぽや健康保険組合)にお問い合わせ下さい。

傷病手当金とは?

傷病手当金は、会社員など、勤務先から健康保険証をもらっている人が病気やケガのために仕事を休まざるを得なくなり、休んだ日についての賃金が支払われなかった場合に、その一部を健康保険が補填する制度です。

入院治療中はもちろん、退院後の通院期間についても申請できる可能性があり、その支給要件は次の4つの条件を全て満たしていることです。

協会けんぽのサイトからの抜粋です。

1.業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること。
自宅療養の期間についても支給対象となります。
※業務上・通勤災害によるものや、病気と見なされない美容整形などは支給対象外です。

2.仕事に就くことができないこと
仕事に就くことができない状態の判定は、療養担当者の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断されます。

3.連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。

4.休業した期間について給与の支払いがないこと
業務外の事由による病気やケガで休業している期間について生活保障を行う制度のため、給与が支払われている間は、傷病手当金は支給されません。ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。

どういう人が対象になるの?

会社員や公務員など、職場の健康保険に加入している人(本人)が対象となる制度で、被扶養者となっている家族や、国民健康保険の被保険者、職場を退職後に社会保険を任意継続している人は対象外です。なお、従業員ではなく法人の役員であっても要件を満たせば支給されます。

いくらもらえるの?

傷病手当金の支給金額は、本人の標準報酬月額をもとに計算されます。
詳しい計算式はここでは割愛しますが、普段の給与の3分の2程度の額が支給されるとイメージして下さい。

時間外労働などによって毎月の給与の変動が大きい場合や、加入期間が短い場合、一定の昇給があった場合など、計算方法や概算額にはいくつか例外的なケースもあります。

具体的な額は個別に計算しなければわかりませんが、2~3ヶ月間が見込まれる入院期間中の経済面を考えると非常にありがたい制度です。なお、傷病手当金は所得税非課税です。

いつもらえるの?

傷病手当金は、申請する期間(療養のために休業した期間)が経過し、その日についての賃金の計算・支給が終わらないと申請出来ませんので、賃金の締切日や支給日が終わってから手続きをします。

締切日で区切った1ヶ月単位で手続きする方が多いのですが、2ヶ月間やそれ以上の期間をまとめて申請することもできます。

なお、申請した傷病手当金が振り込まれるまでには、2~4週間程度の時間を要することが多いようです。

必要な手続きは?

申請書類には治療の内容や経過を記載する部分がありますので、用紙を取り寄せて、入院後に当院へ記入を依頼して下さい。費用は健康保険適用で、患者さんの負担は300円です。

他にも、勤務先の賃金計算に関わる証明が必要となるため、申請書の提出は職場を経由するのが一般的です(退職後の傷病手当金を除く)。

職場には手続きの事務作業は発生しますが、金銭的な負担はありません。

いつまでもらえるの?

傷病手当金の支給限度は、支給を開始した日から通算して1年6ヵ月ですが、全く別の傷病で休職することとなった場合や、いったん治癒した(社会的にも治癒したと言える)傷病が再発した場合は、上記の1年6ケ月が経過していたとしても、新たに申請することができます。※別の傷病であるか否かや社会的な治癒の有無については、保険者が判断します。

休職中の社会保険料

休職中であっても、普段給与から天引きされている社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)は発生します。※住民税も必要です。

この場合の、会社への社会保険料の支払い方法や期日は、お勤め先の規則によります。

傷病手当金と退職との関係

傷病手当金は、退職後も引き続き申請することが出来る場合があります。

アトピーの悪化や入院治療に加え退職まで重なると、患者さんへの負荷は非常に大きなものとなりますから、退職後の受給の可/不可はとても大きな問題です。

退職後の傷病手当金にはいくつかの要件やルールがありますが、特に知っておいて頂きたいのは次の3点です。

①在職中から傷病手当金を受給できる要件(待期の満了や医療機関への受診など)に該当していたこと

②退職前に1年以上継続して社会保険に加入していたこと

③退職日に欠勤していること

当院へ寄せられる入院のお問い合わせの中には、「会社が入院のための休職を認めてくれなければ、退職して入院することになるかも知れません」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、少しでも休みを取って①~③の要件をクリアするなど、結果的に退職になったとしても、傷病手当金をもらいながら治療が受けられる方法を検討してみると良いでしょう。

また、「治療のための休みが取れるか分からない」「会社が休ませてくれない」という場合には、職場の就業規則に病気休職に関する記載がないか確認してみるとよいでしょう。
※従業員が10人未満の事業所は就業規則の作成・届出も任意ですので、規則そのものがない場合もあります。

休職制度

病気やケガの治療のための休職制度を設けることは、会社にとっては義務ではありませんが、どんな就業規則の雛形にも記載されている、非常に一般的な制度です。

また、休職にはお勤め先に対して医師の診断書を提出しなければならないことが多いので、入院なさる患者さんで診断書が必要な方は申し出て下さい。※診断書料が発生します。

最後に

ここまで説明してきたことからもわかるように、傷病手当金は入院治療に取り組む患者さんにとっては、とても心強い制度です。

今後、入院をお考えの患者さんで社会保険に加入中の方は、このような制度があることをふまえて検討なさると良いでしょう。

筆者紹介

中川耕一朗 社会保険労務士

ナチュラルクリニック21で入院窓口やWEBサイトの管理などを担当しています。

詳しいプロフィールは次のページの後半に掲載 医師・スタッフ紹介

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